
小児外科
小児外科
小児外科と聞いても馴染みがなくよくわからないと思う方が多いと思いますので、まずはどのような科なのかを説明させていただきたいと思います。
小児外科は文字通り小児に対する外科治療を行う診療科です。消化器(食道、胃腸、肛門、肝臓、胆嚢など)、呼吸器(気管、肺など)、泌尿器(陰茎、尿道、膀胱など)、生殖器(精巣や卵巣、卵管など)、頭頚部(頚部腫瘤や先天性瘻孔など)、体表(臍や皮膚など)といった多岐にわたる臓器の疾患を扱っています(のちに各疾患に関して具体例を挙げて説明させていただきます)。
緊急対応を要する疾患も多いため、前勤務医療機関では交替制で年中24時間体制下に小児の緊急手術や緊急内視鏡、処置などに対応していました。さらに重症心身障害の方々の胃瘻造設や気管切開、喉頭気管分離術、それらの術後管理も重要な役割の一つです。
新生児から、乳幼児、学童、中学生が主に治療対象ですが、小児外科術後の患者さんについてはその特殊性から成人後も対応させていただく場合もあります。
小児外科を専門に診療するためにはまず成人の外科での修練が必要で、がん治療(手術や抗がん剤治療)をはじめとして、消化器疾患や呼吸器疾患に対する治療、外傷診療(交通事故、墜落・転落、火傷など)、集中治療、内視鏡検査といった診療を行って経験を積んだ後に、小児に特化していくといった流れです。
小児は大人のミニチュアではないと言われ、心身の成長や集団生活、家庭環境など様々な背景を考慮して治療にあたる必要があります。
安静の保てない小児においては全身麻酔や鎮静が必要となることが多く、大きな病院での治療が必要なため当院で小児外科すべての治療が完結できるわけではありません。
当院では小児外科疾患に対する早期発見、応急処置、高次医療機関へ紹介を行うことで適切な医療を提供できるよう努めます。
また、患児本人や保護者の意見、方針、疑問、不安など様々な要素を治療の際に考慮し、診療にあたっていきたいと考えていますので、気軽にご相談ください。
鼠径部の膨らみはオムツ替えの時や、こどもとの入浴時、本人の訴えなどで気付かれます。症状からは、鼡径ヘルニア(脱腸)、精索・陰嚢水腫、停留精巣、鼠径部リンパ節炎などの疾患を考慮する必要があります。病歴や身体所見、エコー検査などで診断を行います。
特にヘルニアの嵌頓(脱出臓器がはまり込んで抜けない)では鼠径部が硬く膨らみ、痛みが強く出る場合があるため緊急対応が必要です。乳児の場合は不機嫌、哺乳不良、嘔吐の原因になります。リンパ節炎も硬く腫れるため一見すると両者の区別が困難な場合もあります。エコーを行うことで診断がつきやすくなります。稀に停留精巣の捻転の場合もあり、慎重な診察が必要です。
特にヘルニア嵌頓の場合は用手還納といって鼠径部に出てきている臓器を早く体内に押し戻す必要があります。診察では押し戻していいかどうかの判断も重要になります。戻せない場合は手術が必要になる可能性が高くなります。
健診で指摘されたり、お風呂の時に気付くことがあります。生理的反射で精巣が鼠径部に挙がっている場合や精巣の固定位置が本来の位置とは異なっていることで停留精巣と診断される場合があります。おなかの中から降りてきていない腹腔内精巣や、精巣が生まれつき萎縮してしまって触れにくい場合や消失している場合もあります。停留精巣と診断された場合は適切な位置へ固定する必要があるため手術が推奨されます。診察やエコーで精巣の位置を確認して診断していきます。
精巣に関して相談があれば早めの受診を検討してください。
新生児期や乳児期に臍が大きく飛び出る場合があり、その場合は腸管などが飛び出る臍ヘルニアの可能性があります。
治療の選択肢の一つに圧迫療法があります。圧迫療法を行うことで、へその形態が改善する場合があります。圧迫療法に関してはできるだけ早期の開始の方が望ましいと考えており、早めの相談を検討してください。受診が遅くなると圧迫療法のみでは効果が乏しくなり、最終的には希望によりますが手術が必要となる場合もあります。臍の形に関してはご家族によって判断が分かれるため、手術に関しては必要性を十分話し合った後に希望があれば手術可能な病院に紹介となります。
赤く腫れて感染している場合や排液が続いてじくじくしている場合などは尿膜管遺残などの病気も疑われます。外科的に取り除く必要なものが隠れている場合がありますので、へそのじくじくが治らない場合はいつでもご相談ください。
小児外科の行う緊急手術の中でも多くを占めるのは急性虫垂炎(盲腸と呼ばれることもあります)です。特に右下腹部が痛いという場合に虫垂炎を見落とさないように注意が必要です。右下腹部は腸炎でリンパ節が腫れていることもあり、症状の経過や流行、痛みの程度などを総合的に判断して、急性虫垂炎が疑わしい場合はエコーを用いて腫れている虫垂を見つける必要があります。虫垂はおなかの中で色々な場所に位置することがあることや体格のいい人では見つけにくい場合があり、症例によりますがCT検査が必要な場合は他院への紹介を行います。虫垂が穿孔している場合は腹痛が強くなるため緊急性が高くなります。多くの場合緊急手術を行います。穿孔して経過が長くなると腫瘤形成性虫垂炎といって手術が難しくなることがあり、その場合は抗菌薬治療の後に数か月あけてから手術を行うといった方針が採用される場合があります。
女の子の場合は右卵巣の捻転なども考える必要があります。捻転を起こしている場合、奇形腫などの腫瘍を伴うことがあります。
便の色は病気を見つけるのに重要です。オムツ替えの時に便が赤い、黒い、白っぽいなど気づかれることがあります。母子手帳を参考にしていただくことも重要です。赤いといっても便に少しつく程度なのか、血の塊が出てくるなど様々です。黒い便は出血が胃酸の働きで黒く変化することで見られる場合があります。便の色の感じ方には個人差もあるため、写真を撮って記録することをおすすめします。出血の原因としては肛門が切れる場合や、腸炎、潰瘍(胃、十二指腸やメッケル憩室)、腸重積、アレルギー、若年性ポリープ、炎症性腸疾患など多岐にわたります。問診や診察を行い、エコーで病変が見つかる場合もあります。便の色が白っぽい場合は腸炎の他に、月齢にもよりますが胆道閉鎖症を疑う必要があります。便についてなにかおかしいと感じた場合は手術が必要な疾患も含まれていることがあり、気になる方は母子手帳を参考にしながら相談してください。
新生児が哺乳を開始すると、生理的範囲内で嘔吐をすることがあります。げっぷが上手にできず、げっぷのタイミングで嘔吐してしまうこともあります。嘔吐内容がミルクそのもので元気に哺乳ができ、体重がしっかり増えて徐々に嘔吐が改善すれば心配のない場合が多いですが、ミルクを飲むたびにたくさん吐いてしまったり、噴水様の嘔吐が出現してくる場合があります。その場合は肥厚性幽門狭窄症といって胃の出口の幽門筋が肥厚している可能性を考える必要があります。また、黄色い吐物がみられる場合(胆汁性嘔吐)は、胃より奥の腸の通過が悪いことが考えられます。おなかの中で腸が捻じれていたり、腸の通過が悪い状態(腸閉塞)であったり、腸重積が悪化している場合など外科手術が必要な病気が隠れていることがあります。嘔吐が続くと脱水がすすみ、全身状態の悪化につながります。エコーでは通過障害の原因を発見することや、腸の捻じれを捉えることが可能な場合があるため、嘔吐が続く場合の検査として重要になります。また、レントゲンは胃や腸管の拡張を捉えたりすることでおなか全体の様子を観察することが可能です。
陰嚢が痛い場合最も緊急性が高いものが精索捻転になります。精巣へ送る血流がなくなるため、放置すると精巣は壊死したり萎縮する原因になります。そのため可能な限り早く捻転を整復する必要があります。用手整復で血流が改善する場合もありますが、戻せない場合は手術になります。陰嚢痛の場合は、精巣付属小体捻転や精巣上体炎など他の疾患もエコーを用いることで診断がつきやすくなります。
それぞれの疾患に応じた治療を行う必要があり、陰嚢痛の緊急性の判断には十分な経験が必要となります。
小児外科では肛門の疾患を多く扱いますが、多く紹介されるのが肛門周囲膿瘍や乳児痔瘻です。肛門の周りが赤く腫れたり、膿が出てきたりする疾患です。必要に応じて排膿のために切開を行ったり、漢方の内服などで治療を行います。これらの治療を行い、多くの場合は徐々に軽快していきます。痔瘻が改善しない場合は手術を検討することになります。
便秘による切れ痔を認める場合は便通を整える治療を行い、改善を待ちます。
出産時に肛門がない場合は鎖肛(直腸肛門奇形)として早期に診断がつき適切な治療介入がなされることが多いです。ただ、便は出ているけど浣腸しようとしたらチューブが入らないといった訴えで肛門を確認すると、本来の位置とずれて瘻孔が形成されている肛門皮膚瘻といった異常が見つかる場合があります。女児の場合は膣口の近くに瘻孔が形成され、便が出てくる場合もあります。いずれも手術が必要な状態です。
これら肛門の異常に気付かれた場合は受診を検討してください。
こどもの場合は事故によるけがや異物を飲み込んだりする場合があります。けがに関しては様々な状況が想定されます。切り傷や火傷など皮膚のみの場合であれば縫合や軟膏処置で対応しますが、火傷の範囲によっては入院加療が必要になります。こどもの場合は頭部外傷が多く、頭をぶつけた際に頭皮が切れるだけの場合もあれば、ぼーっとしたりすぐ眠るような意識障害をきたす場合があります。頭蓋骨骨折を伴う場合もあるため、けがをした状況や診察所見により重症度を判断して、適切な医療機関への搬送が必要になることがあります。また、転落や墜落外傷では胸部や腹部臓器の損傷も考えられるため、エコーでの臓器損傷の精査が重要で、併せて痛めた部位に骨折が疑われる場合はレントゲンを行うことがあります。けがの部位や程度によってさまざまな状況を想定しなければいけないため、事故状況の記録や情報収集をお願いします。
異物を飲み込んだ場合、レントゲンで映るものは位置の特定がしやすくなります。飲み込んだものと同じものがあれば持参してください。特にコイン型リチウムイオン電池や複数の磁石は食道や胃腸に損傷をきたすリスクが高くなります。また飲み込んだものが気管支に入り、持続する咳として症状が出る場合もあります。
こどもの事故は予防が大切です。危ないものは触れないようにすることや目を離さないこと、状況によってどんなけがが起こりやすいかを日頃から想定しておくことが重要です。また、危険な場所などを理解できる子には理由とともに説明してあげてください。
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